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ロータス・カルテット コンサート・レヴュー


均質にそろった弦の見事さ

ロータス・ストリング・カルテットがリエンツィンゲン
(独、バーデン・ヴュルテンベルク州)の『ミュージカル・サマー』で熱演


 均整がとれて美しい響き、そしてどのパートも全体の調和の中で作り上げられている ― それが、フラウエン教会(リエンツィンゲン)で催された『ミュージカル・サマー』でのロータス・カルテットであった。元々日本人女性で結成されたこの弦楽四重奏団に、2005年以来第2ヴァイオリンとしてアジア系でないマティアス・ノインドルフが加わっているが、その響きの均一性において、更には演奏解釈上の一致ということに関しても何ら綻びはない。
 第1ヴァイオリン小林幸子の配慮細やかで緻密なリードに導かれ、ロータスは出だしのモーツァルト『弦楽四重奏曲KV589変ロ長調』から音色の魔術を惜しみなく繰り広げた。曲のディテイルは有機的に全体に組みこまれており、分析的なアプローチによってことさらに浮かび上がらせることはしない。今日、どちらかというと歴史的な演奏法に負う所の大きいアンサンブルにみられるような曇りがないアポロン的な明るさがその演奏を特徴づけている。第2楽章ではチェロの斎藤千尋が細心さを感じさせる音出しで、しっかりと前面に立つ演奏。何しろこの四重奏曲は、モーツァルトが熱心なアマチュア・チェリストであったプロイセン王フリードリヒ・ヴィルヘルム2世のために書いたものなのである。
 この女性トリオ+男性第2ヴァイオリンによるアンサンブルは、シューマンの『弦楽四重奏曲第2番へ長調作品41−2』でも渾身の演奏をみせる。密度の高い、たっぷりと浸りきるような演奏で、それでいながら楽曲の構成をきっちりと跡付けていた。シューマンの「室内楽の年」といわれる1842年、彼はその準備期にベートーヴェンの作品を大いに研究したのだが、このヘ長調のカルテットはむしろメンデルスゾーン・バルトルディに負う所が大きい。ロータスはこの作品に付されたロマン派的性格を追い求めて、繊細な音色の変化によるドラマトゥルギーを駆使し、様々に強調を変化させていた。
 ドヴォルザークの『弦楽五重奏曲作品77』はオーケストラを連想させるような豊穣な響きが素晴らしい曲である。ドヴォルザークはモーツァルトやシューベルトとは違って、このト長調の五重奏曲作曲にあたりヴィオラ或いはチェロを2本に増やすことはせず、コントラバスを追加した。急遽ヴォルフガング・ギュトラーに代わり演奏に加わった女性コントラバス奏者コンスタンツェ・ブレナー(シュトゥットガルト放送交響楽団のソロ・コントラバス奏者)はロータスの音楽世界に何ら問題なく溶け込んでいた。冒頭楽章から既に情熱的に始まり、第2楽章スケルツォはチェコの民族的色彩を帯びて心奪うよう。第3楽章アンダンテは細やかに味わいつくされ、そしてドヴォルザークが多くの作品で得意とする最終楽章は、ロータスの豊かな感情がまさに溢れる演奏となっていた。

プフォルツハイマー・ツァイトゥング紙2010年9月13日付
評:トーマス・ヴァイス
同コンサートについて 
ミュールアッカー・タークブラット紙 2010年9月14日付より抜粋
評:ルドルフ・ヴェースナー

シューマンの『弦楽四重奏曲ヘ長調作品41−2』について
 「ロータスは第1楽章の拡大展開されていく主題を温かくたっぷりと形づくっていた。第2楽章アンダンテが静かな流れの中で優雅に、抒情的に奏でられたかと思うと、続く第3楽章スケルツォは活き活きと、前へ前へと駆り立てるエネルギー全開で演奏された。最終楽章となるアレグロでは猛烈なテンポの中、圧倒的な技量で力強くこのシューマンの演奏を終えたのであった。」

ドヴォルザークの『弦楽五重奏曲ト長調作品77』について
 「ロータスは冒頭楽章の出だしから、迫り来るテンポの中ニュアンスに富む演奏を聴かせた。第2楽章スケルツォは燃えるような情熱を感じさせ、抒情的に美しい旋律の中間部がうっとりするような柔らかさで仕上げられており、そのはっきりしたコントラストが際立っていた。第3楽章ポコ・アンダンテは感情がこもって夢見るようであった。そして最終楽章、それまでも比類なく光沢のある響きを聴かせていた五人が、その弦を更に輝かしく響かせ、聴くものを陶然たる境地にまで誘っていた。」




ロータス・カルテット&フランシス・グトン(チェロ)
2010年2月14日
ハイデン(スイス、アッペンツェル近郊)のリンデンザール
『クロイツェル・ソナタ』弦楽五重奏版
(ベートーヴェンの同名ヴァイオリンソナタの編曲)
シューベルト弦楽五重奏曲ハ長調 作品163 D956

卓抜した技術を備えた独自の演奏スタイル


 ロータス・ストリング・カルテットがフランス人チェロ奏者のフランシス・グトンを加えた五重奏で、極上の室内楽を聴かせた。 
 
先の日曜午後に開かれた『アッペンツェルの冬2010』の第二回コンサートは、一流の演奏家の手による選り抜きのプログラムであったことが一番の印象である。古い歴史を感じさせるリンデンザールの心地良い空間の中で、期待に満ちた聴衆が心に響く素晴らしい音楽のひと時を体験したのだった。
 演奏されたのは、18世紀末から19世紀にかけての古典派の室内楽曲の中でも極めて興味深い二つの弦楽五重奏曲、ベートーヴェンのヴァイオリンソナタ『クロイツェル』の弦楽五重奏版と、フランツ・シューベルトの名高い弦楽五重奏曲ハ長調 作品163 D956である。
 日本由来の弦楽四重奏団ロータス・カルテットは、『アッペンツェルの冬』にこれで五度目の登場となる。今年は世界的に評価の高いフランス人チェリスト、フランシス・グトンを迎えた五重奏の編成でのコンサートとなった。グトンの加入はこのカルテットを理想的に補っていたが、同時にグトンのソリストとしての資質も強く印象に残った。
 この5人のアンサンブルでは、響き及びリズムの均質性と、音楽的効果の高さが大きな魅力となっていた。オーセンティックで考え抜かれた解釈のもつ芸術性、宝石のように多様な輝きを放つ響きの世界、そしていかにも軽々とした演奏は見事なものである。
 第一ヴァイオリンの小林幸子が配慮の行き届いたリードを見せ、確固とした表現力のある音でソロとしてのアクセントを加えていく。そこに第2ヴァイオリンのマティアス・ノインドルフ、ヴィオラの山碕智子、チェロの斎藤千尋、同じくチェロのグトンが、全く対等なパートナーとして加わり、情感豊かな音色でこのアンサンブルの響きと演奏のスタイルを洗練されたものに作り上げていた。

ベートーヴェンの『クロイツェル・ソナタ』
 コンサートは聴衆期待の『クロイツェル・ソナタ(イ長調、作品47)』弦楽五重奏版で幕を開けた。ベートーヴェンはこの曲を元々はヴァイオリンとピアノの為のソナタとして技巧豊かなスタイルで書いている。1830年にジムロックから出版されたこの五重奏版の編曲者は不明であるが、おそらくベートーヴェンのいずれかの弟子であると思われる。
 この弦楽による五重奏版はコンパクトな協奏曲のたたずまいで、オーケストラを聴くようであった。奏者(特に第1ヴァイオリンとチェロ)は幾度も独奏的な見せ場を作っていた。
 冒頭楽章(「アダージオ・ソステヌート、プレスト」)では、即興によるカデンツァのようなゆったりした導入部が、スタッカートのリズムが特徴的な第一主題へと慎重に移行する。一切無駄のない的確な一連の主題が実に活き活きと形を表し、多様なヴァリエーションで繰り広げられる。結びのコーダは厳密にテンポを保っているにも関わらず、紛れもなくストレッタの高揚感を帯びており、最後は技巧を駆使した音階に終わった。リートを思わせる憧憬に満ちた主題を持つ第2楽章(「アンダンテ・コン・ヴァリアツィオーニ」)は実に多様な色彩変化を見せる。そのまことに豊かな表現の世界を、このクインテットは研ぎ澄まされた感覚で深く探りだしていった。手の込んだ演奏技術上のアクセントや、4つのそれぞれ全く趣きの異なる変奏がもつ雰囲気の各々が、全て効果的に表現されていた。ロンドに似たソナタ形式による活力に満ちた最終楽章では、確実に効果をあげる演奏技術が何よりも印象的であった。

シューベルトの弦楽五重奏曲
 この日のクライマックスはシューベルトの弦楽五重奏曲ハ長調であり、その演奏は実に魅力に富んでいた。この曲では、控えめな大作曲家シューベルトが彼自身の内奥深くをのぞかせており、また彼の内に秘めた苦悩を克服するかのように表現している。
 5人のアンサンブルは、彼らの豊かで幅広い表現の隅々まで強弱法による緊張をみなぎらせていて、ヴィルトルオーソ的技巧や、或いは響きの美しさだけに頼っていない。この偉大な作品に彼らは脈打つ命を吹き込んでいた。すなわち、色彩豊かな第1楽章「アレグロ・マ・ノン・トロッポ」での深い情感、内省的な美しい旋律をもつ第2楽章「アダージオ」での平安と突然湧きあがる動揺、心揺さぶる「スケルツォ」の湧き立つ生命力と「アンダンテ・ソステヌート」(共に第3楽章)の謎に満ちた静けさ。そして、アクセントの効いたリズムを持つ最終楽章は、死に脅かされるものとしての人間存在と存在の喜びとの相克の中、テンポを2段階上げていく緊張と高揚のうちに頂点に至ったのである。
 熱狂的な拍手によって五人の奏者は何度もカーテンコールに呼ばれたのであった。

アッペンツェラー・ツァイトゥング紙
記事:フェルディナント・オルトナー



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