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漆原 朝子 新聞・雑誌掲載記事(2005)

'05. レコード芸術 9月号
独断!こだわりのディスク ベスト3【ヴァイオリニスト】漆原 朝子



(1)モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ 第25、28、32、34、同第40〜42番*
  アルテュール・グリュミオー(vn)クララ・ハスキル(p)<録音:1956〜59年>
  [フィリップス M S PHCP 10368(現役盤は21019),S10369*]

(2)J.S.バッハ:パルティータ第1、3、6番、同第2、4、5番*
  リチャード・グード(p)<録音:1997〜98年*、2002年6月>
  [Nonesuch D 79698,79483*](海外盤)

(3)シューベルト:ピアノ・ソナタD.894、同D.960
  グリゴリー・ソコロフ(p)<録音:1992年8月(ライヴ)>
  [Opus111 D OP30387](海外盤)


 
最初に挙げたいのが、グリュミオーとハスキルのモーツァルトのピアノとヴァイオリンのためのソナタ集です。このCDは小学生のころからレコードで聴いていましたが、その当時はどこがどう素晴らしいのかわからないなりに漠然とその美しさを感じていました。グリュミオーは私の大好きなヴァイオリニストで、CDを買うとしたら大抵まず彼のものから選びます。彼のどこまでも透明な美しい音色に加え、さりげなさの中に無限の微妙なニュアンスに溢れたひとつひとつの音の運びがたとえようもなく美しく、このモーツァルトのCDは、特に彼の魅力に満ちた1枚だと思います。
 次に挙げたいのがグードのバッハのパルティータ集です。もともと彼のお弟子さんとデュオを組んだこともあったことから、彼の自宅にうかがってブラームスのソナタを一緒に弾いてくださりながらコーチをしていただいたり、マルボロ音楽祭で共演させていただいたり、ジュリアード留学中から真の芸術家とはこういう方のことをいうのだ.......と強く感じていました。私が彼のお弟子さんたちと共に聴きに行った、グード、50歳のカーネギーホールでのデビュー・リサイタルは、彼のその芸術家としての成熟度の高さにしては異例の遅さでした。その演奏会は、それはそれはすばらしく、皆、感動と興奮で目に涙を浮かべていました。終演後、楽屋を訪ねて行った際、お弟子さんの一人がプログラム最後に演奏されたドビュッシー《夢の島》を「あなたのように弾けたらどんなに幸せだろうか」といったところ、グードが「とんでもない!あれは最低の演奏だった。決して真似しないように!」と怒ったような口調で言っていたのに驚いたことを覚えています。非常に自己に対して厳しい方で、自己満足とはほど遠いところで自己を磨き、深化し続けている演奏家だと思います。彼のCDはベートーヴェン全集、そして残念なことに廃盤でここに挙げれないシューベルトの最後のソナタの入ったCD、モーツァルトのコンチェルト等素晴らしいものがたくさんありますが、今回はバッハのパルティータ集を挙げさせていただきます。精神性の力強さに加えて柔軟な美しさ、そして静けさを湛えたこのバッハは本当に素晴らしいです。
 最後はソコロフのシューベルトの最後のソナタ、変ホ長調、D960が収められたCDです。彼のバッハのフーガのCDも、揺るぎない構築性と強靭な精神力でどこまでも太く、美しく、深く心に響いてきます。彼のシューベルトのこのソナタは、不思議なほど私の大好きなグードのこの曲の演奏に酷似していて、同じ方向性を持った2人の偉大な芸術家はこうも似ることがあるのだと驚いたものです。2人の共通点、すなわち、強靭な精神力に加え、遑しさと美しさ、繊細さと優雅さ、そして完璧なテクニックと深い音楽性は、バッハ・ベートーヴェン・シューベルトのような曲に、より明確に表れるようです。いずれにしても私はこれらのCDに本当に勇気づけられ、生きていく力を与えられてきました。とてもとても及びませんが、私もこの人たちのような真の芸術家に少しでも近づけるよう日々精進していきたいです。



音楽の友 '05. 6月号 コンサートナビ
漆原朝子 ヴァイオリン
音楽を深めた実力派が挑むベートーヴェンのソナタ
取材・文:奥田佳道


 「《クロイツェル》を弾くのは10年ぶりではないでしょうか。ベートーヴェンはもちろん大好きです。でも少し距離を感じていたのも事実なんです。ドイツで暮らしている時に、私の演奏は呼吸が浅いのではないかと考え、悩んだ時期もありました。それが最近、距離が近くなってきたのを感じます」
 ベートーヴェンの音楽を愛し、それ故に悩みも対峙もした。しかし、ここへきて「深く自然な息づかいで演奏できるようになってきた」と語る実力派のヴァイオリニスト。そんな彼女が、この作曲家のピアノ・ソナタ連続演奏で声価を一段と高めたピアニストと出逢ったのは、芸術的な必然と言える。
 漆原朝子と迫昭嘉のデュオが遂に実現する。それも《春》、作品30の3、《クロイツェル》という究極のベートーヴェン・ソナタ・プログラムだ。
「昨年の9月、前からご一緒したいと思っていた迫昭嘉さんと大阪で共演する機会がありました。その時はベートーヴェンではなくて、モーツァルト、シューベルト、ヤナーチェク、フランクのソナタだったのですが、ヴァイオリンを弾く幸せを感じました。先日(今年3月)は神戸でもご一緒して、感動を新たにしたところです」
 楽曲の本質と向き合うヴァイオリストの言葉は示唆に富む。
「タイトルのついたソナタは、とても気持ちがいいので、雰囲気で弾かれてしまうことがあるでしょう。そうではない演奏をしたかったので、自分が納得できるまで、時間をかけて取り組もうと思いました。今まで以上の内容を求めるには、それなりの準備期間が必要です。音楽と純粋に向き合う時間、つまり自分を磨く時間ですね。ようやく入り口に立ったかなという気がします。オール・ベートーヴェン・プログラムは挑戦ですが、一人の作曲家の豊かな音楽のひだをじっくり味わう機会が訪れたという風に考えています」
「どのフレーズをとっても、ニュアンスが豊富、音がいきているんです。刻々と変わる状況に対応してくださるところも素晴らしい。音楽を導いてくださるんです」と、迫・賛もつきない。
 ルール違反を承知の上で、当日の聴きどころを伺ってみた。
「《スプリング》の第1楽章は、新しいことをたくさんやっているのに、いたってシンプルで、音も多くないですよね。気持ちよく弾けてしまうソナタですが、自然な流れやインテンポのなかに、独奏の間(ま)があるんです。それを迫さんとなら自然に表現できそうです。《クロイツェル》も表面的な速さや強弱ではなく、ベートーヴェンが表現したかったものを、私なりに出したいと思っています。自然に、でも呼吸は深く。ベートーヴェンの強靭な精神を感じながら弾きたいですね」
 今年、コンチェルトはブラームスが多い。来年は言わずと知れたモーツァルト・イヤーだが、漆原朝子にとって重要なのは、ドイツ・ロマン派の化身シューマンの没後150年ではないか(と勝手に決めさせていただく)。あの「内的な激情に駆られた」ソナタ3曲と協奏曲を十八番とする漆原。その前に、待望のデュオによるベートーヴェンの「二重奏ソナタ」を満喫するのが聴きてのたしなみというものだ。迫昭嘉とのデュオに拍手の花束を。



'05. 3月19日 産経新聞 夕刊
バイオリニスト 漆原朝子 ベートーベン二大曲にピアノ迫昭嘉と挑戦


 近年、精神性もより深みを増してきた実力派バイオリニストの漆原朝子が、やはり独自の音楽観を持つ実力派のピアニスト、迫昭嘉とともにベートーベン「春」「クロイツェル」の二大作品と第八番、三つのバイオリン・ソナタを取り上げるステージを25日午後7時15分から神戸・松方ホールで開く。
 二人は昨年、大阪で初共演。フランクのソナタを取り上げたが、漆原は「迫さんは、本当に不思議なことに、作品に対する私のイメージを一瞬にして感じとってくださいました。だから、言葉では何も言う必要がなかった。おそらく、同じようにフランクを感じていたのだと思います」と話す。
 「ベートーベンは、人生のほんの一時期しかバイオリン・ソナタを書いていません。(全生涯にわたるソナタが存在する)ピアノがうらやましくて・・・。自分では、ベートーベンに本腰を入れるのはまだ早いかとも思いましたが、“時期”を待ってたら、いつまでも弾けないと思って・・・」と笑う。
 「シンプルで(無駄が)削ぎ落とされた美しいメロディー。それをベートーベンの世界の中で、いかに個性的に聴かせるか・・・。実は一番難しい」という「春」。そして、どっしりした構築感の「クロイツェル」、ふたつの世界観を併せ持つ第八番。ベートーベンの創出した3つの違った音楽世界が展開される。
 ここ数年、シューマン、ブラームスとソナタ全曲を取り上げて、その新たな魅力に光を当ててきた漆原。そして、ベートーベンのピアノ・ソナタ全集の名演で知られる迫。ふたつの“超有名曲”の料理の仕方も、通り一遍のものではないはず。大いなる名演が期待できそうだ。

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'05. 3月2日 神戸新聞 夕刊
25日にリサイタルを開くバイオリニスト 漆原朝子
ベートーベンのソナタに意欲


  バイオリニストの漆原朝子が25日、神戸・ハーバーランドの神戸新聞松方ホールでリサイタルを開く。ピアニストの迫昭嘉とのデュオで、初めてオール・ベートーベンプログラムに挑む。「迫さんとでなければできなかった」と、漆原がリサイタルにかける思いは熱い。
 漆原は、東京芸大付属高在学中に日本国際音楽コンクールで最年少優勝、1988年、NHK交響楽団の定期演奏会でデビューし、内外で活躍を続ける。
 近年はシューマンのソナタ全曲演奏で作品の再評価を促したほか、オーケストラのソリストとしても、昨年末の約1ヶ月間だけで10以上の本番をこなすなど、充実した活動ぶりをみせる。
 昨秋からデュオを組み始めた迫を「以前から一度はご一緒したいと思っていた方。枠組みがしっかりしていて、名曲でも上っ面だけで弾きやすいものを弾く、ということにはならないと思った」と漆原。そんな思いもあり、ソナタ5番「春」、8番、9番「クロイツェル」という有名曲中心のプログラムを組んだ。
 「一番難しいのは、『春』。いわゆるベートーベン的な美しさ、繊細さを兼ね備えているがゆえ、得てして(全体が)流れ、心地よくきれいになり過ぎてしまう」と漆原。以前はベートーベン中期の「名曲」に拒絶反応があったというが、「器楽だけれど声の要素、歌の要素を意識的に取り入れ、表現しよう」という、音に対する認識の変化が、抵抗を少なくしたようだ。
 「最終的には本能に乗っかって弾けるようになればいい」と漆原。「以前より、ベートーベンが身近に感じられるようになってきた。望まれる演奏をするのは、最低限のレベル。迫さんとなら、私の中になかったものを引き出してもらえるのではと思っています」と語っている。

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'05. 2月10日 毎日新聞「人ナビゲーション」
新デュオを組んだ実力派バイオリニスト 漆原朝子さん


 ポーランド、京都、大阪、東京・・・・・・。各地のオーケストラから指名され、昨年12月だけで9公演のソリストを務めた。演奏家としてまさに充実期を迎えたバイオリニスト。新たに室内楽のパートナーとしてピアノの迫昭嘉とデュオを組み、活動を始めたばかり。
「昨秋初めてご一緒しましたが、ただ一緒に弾くだけで伝わる感じで、うれしかったですね。迫さんはオーソドックスな基盤があり、その中に優雅さ、力強さ、繊細さを兼ね備え、(演奏を)底辺から支えてくれているようでした」
 東京芸大付属高校在学中の83年、日本国際音楽コンクールで最年少優勝し、注目を浴びた。88年にNHK交響楽団定期演奏会でプロデビュー。以後、欧米にも活躍の場を広げた。
 近年、シューマンに続き、ブラームスのバイオリンソナタ全曲演奏会をするなど、”攻めの姿勢”が目立つ。表現力に磨きがかかり、音色も変わったと評判だ。それには、5歳になる娘の存在が大きく影響しているのだという。
「本当に教えられることがいっぱいなんですよ。子どもは自然体で生きているでしょ。弾くときに生きる力という自然な力がそのまま使えると音も“のる”し、表現ももうまくいく。壁を作ったり、力で封じ込めてしまうと音も出にくくなる。壁をいかに取り払うかという手本がいつも近くでうろちょろしてくれているから、そうやっていればいいんだなって子どもを見て思うんです」。そう言うと、穏やかな母親の笑顔になる。
 今、肉厚な音づくりと豊かな表情の出し方について、研究を重ねている。
「最近何を弾いても、歌ったらどうなのかをよく考えます。バイオリン演奏も楽器を経由するけど歌だと思うんです。歌には説得力がある。伸ばす音一つとっても、最初の出からどういう変化をして終わるかを考え、物理的にどういう風にすればどんな音が出るのかを弾いて分析する。最後はそんなことをすべて忘れて、体だけで弾けるようになれば表情の豊かさが伝わるのかな」
迫とのデュオ・リサイタルは、3月25日に神戸新聞松方ホール(078・362・7191)、6月には東京でも開く。曲目はベートーベン「ピアノとバイオリンのためのソナタ」から、5番「春」、8番、9番「クロイツェル」。
【出水奈美】

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