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セバスティアン・マンツ CDレヴュー | |||||||
『カール・マリア・フォン・ウェーバーの クラリネットのための全作品集』 |
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Carl Maria von WeberComplete Works for clarinet | |||||||
“華麗な技術、歌わせる力、ニュアンスに富んだ音の美しさ、演奏にみえるひらめき、 作品への創造的な取り組みが、嬉しいことにここにそろっている” <ドイツ・レコード批評家賞の2017年第2四半期のベスト盤リストに選出> <2017年のエコー・クラシック賞(ECHO KLASSIK 2017) 「19世紀の協奏曲録音部門」受賞> |
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クラリネットの達人、セバスティアン・マンツ ほとんど英雄的な偉大さ カール・マリア・フォン・ウェーバーはクラリネットのために魅惑的な作品の数々を書いている。セバスティアン・マンツは中途半端を望まず、一挙に全作品を録音した。正しい決断だ! その澄んだ音、奏者の個性が出ること、そして機敏さ。クラリネットが長い間ジャズの世界で、光り輝くトランペットと共に、最も人気のある管楽器であったのも至極当然である。サキソフォンがそのトップ争いに割って入るまでは。革新的な演奏家が作り出してきた、その人だけの、すぐに他とは識別できるようなしなやかで弾力性のある音は、たちどころに人の心をとらえてきた。 これは今も同じだ。現代作曲家として成功を収めるイェルク・ヴィトマンは素晴らしいクラリネット奏者でもある。その彼がベルリンのピエール・ブーレーズ・ザールのこけら落としで、自ら作曲した《独奏クラリネットのための幻想曲を高らかに演奏したのだが、この曲ではジョージ・ガーシュインの《ラプソディ・イン・ブルーからとったメロディが楽し気に使われていた。しかし、クラシックから現代曲へ橋渡しをする楽器としてのクラリネットは、既にカール・マリア・フォン・ウェーバー(1786〜1826)が確立していたのだ。彼が生涯に生み出した作品は室内楽からオーケストラとの小協奏曲にまでわたるが、この多作の作曲家がそのために与えられた人生は、僅か40年であった。 ベニー・グッドマンで目覚める ウェーバーのクラリネットのための全作品は、CD2枚にちょうど収まる。1986年ハノーファー生まれのセバスティアン・マンツが、今回それを全曲録音した。どうやらこれは彼が抱いてきた大切な案件だったようだ。というのも、その熱量の高さと、あるべき正しい雰囲気や最適の表現を常に探し求める姿勢が、どの音からもしっかりと感じられるのだ。かつてマンツはベニー・グッドマンのウェーバーを聴いて目覚めたという。それは完璧で、気持ちを浮き立たせ、喜びに溢れるような音楽であったと。即ち、(クラリネットという)楽器への賛美であり、《魔弾の射手というロマン派の傑作をこの世に出した −そして彼が送り出したのは決してこの曲だけではない− 素晴らしい作曲家をほめたたえる歌であったと。 いずれにせよ、ウェーバーの室内楽作品では、一人一人がウェーバーの着想と向き合い、取り組む自由度が大きい。これには音の出し方、テンポ、アクセントも含まれる。ということで、またもジャズにたどり着くことになるのだ。 演奏技術とロマン派的な表現 アルバム冒頭の、華々しい3楽章からなる協奏的大二重奏曲作品48から、マンツらしさがしっかりと出ている。だからと言って、ことは単純ではない。つまるところこれらの作品はウェーバーが、当時の著名クラリネット奏者であるハインリヒ・ベルマンの才能に惚れ込んで、彼のために作曲したもの。要求される演奏のテクニックはロマン派の音楽表現全般にわたり、《魔弾の射手を想起させるほどである。 ウェーバーのオペラ《ジルヴァーナの主題による変奏曲も同じく巨匠ベルマンに献呈されていて、それだけに魅力的である。主題は飾り気のない優雅さが魅惑的で、7つの変奏は騒然と絡み合うように変化してゆき、一層魅力を増す。 (クラリネット五重奏曲作品34について) シューベルト的なほど深刻で、全4楽章が陰鬱な偉大さや天国的な荘重さを感じさせるようなクラリネット五重奏曲作品34とは、これはまさに対極にある。第3楽章メヌエット(カプリチオ、プレスト)で、これよりテンポの速いものは多分これまでになかっただろう。独奏者マンツは、呼吸のテクニックとほとんど信じられないような音出しで輝きを放っている。最終楽章のロンド(ギャロップ)で、もう一度ほんとにすごい演奏になる。これは本当にヒットだ。クラリネットとアンサンブルがたちまち聴き手を魅了する。 クラリネット協奏曲第1番ヘ短調では、マンツの力強い音は軽々と、ほとんど英雄的な偉大さにまで達する。それによって、ロマン派らしく荒ぶるオーケストラにも負けることなく極めてうまく対抗しており、アントニオ・メンデス指揮のシュトゥットガルト放送響と共に、この3楽章構成の作品を劇的緊張に溢れた珠玉の一作に仕立て上げている。そこで勝利しているのは演奏テクニックだけではなく、特に第2楽章アダージオ・マ・ノン・トロッポでのロマンチックで詩的といってよいほどの味わいである。 マンツはソロ・パートの優雅で感情的な調子を帯びた旋律線を味わい尽くすが、やり過ぎることはない。特にホルンとの合奏になるところは、ただひたすら幸せな瞬間を供してくれる。このオケと名手マンツの共演がこんなにも親密であるのには、彼らが長年互いをよく知っているという事情がある。マンツは2010年以来、まさにこのシュトゥットガルト放送響(統合により2016年9月〜シュトゥットガルトSWR交響楽団)の第1ソリストとしてクラリネットを吹いているのだ。熱意をもって、そして成果を挙げて。誰が聴いてもわかる調和がそこにはある。 またピアノのマルティン・クレットとは長年にわたり共演を続けるパートナーである。彼と組んだ‘デュオ・リオル’では既に2008年にドイツ音楽コンクールで優勝している。他にもマンツは、彼のクラリネット芸術に対して二度のエコー・クラシック賞を贈られている。 マンツはほとんど忘れ去られていたクラリネット向けの作品をこれまで幾度も見出している。例えばオーストリアの作曲家ローベルト・フクス(1847〜1927)のクラリネット五重奏曲だが、彼は同作品を躊躇なくヨハネス・ブラームス(のクラリネット五重奏曲)の同列に置いた。セバスティアン・マンツを生で聴こうと思うなら、2017年はそのチャンスがいっぱいだ。各地のフェスティバルやコンサートホールで、この勤勉なソリストを絶えず聴くことができるから。 シュピーゲル電子版 2017年3月12日付 記事:ヴェルナー・トイリッヒ
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