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2005年 5/26
迫 昭嘉(指揮・ピアノ)・札幌交響楽団 第20回記念稚内定期
〜日本最北端の街に響いた ザ・グレート! 〜
 
迫 昭嘉   2005年 5/21(土) 18時30分
稚内総合文化センター大ホール

●ベートーヴェン:
 『コリオラン』序曲

●モーツァルト:
 ピアノ協奏曲 第23番 イ長調 K.488

●シューベルト:
 交響曲 第8(9)番 ハ長調 D.944 『ザ・グレート』
 
     

今、日本における藝術音楽の公演開催の有様は、非常に大きな転換期に入りつつある。
これまで、特に地方都市での音楽会のほとんどは、平たくいえば『税金』によって支えられていた。プロ・オーケストラや音楽事務所の多くも、実のところ長い間その恩恵に浴してきたのだが、国や自治体が目下直面している深刻な財政危機の中、それもままならなくなってきている。

そのような状況下、典型的な過疎化進行地域とも言うべき、宗谷支庁の中心都市である稚内では今年も札幌交響楽団稚内定期公演(正式名称=音文協札響稚内公演 第20回記念演奏会)が開催された。しかも、20年間毎年続いて、今年がついに第20回記念公演。市内の医師や地元金融機関の理事長、建設会社社長などが発起人となって好楽家を募り、自治体、地元企業、新聞社などに協力を働きかけ、その地道な継続で続いての20年!である。

札幌から自動車で普通に走ると5〜6時間を要するという最北端の街、稚内市の人口は約4万2千人。二十年程前から比較すると1万人以上減少しているのだそうだ。水産業の衰退が主因らしい。にもかかわらず、稚内定期は主催者の要望により、秋山和慶、高関 健 といったトップクラスの指揮者を迎えて堂々たるオーソドックスなシンフォニー・プログラムを組むことで20年間貫いてきた。それでいて盛況を呈している。立派なことである。

記念すべき20回目の公演は 指揮とピアノに迫 昭嘉を迎えて行われたが、シューベルトの『大ハ長調』もベートーヴェンの序曲も稚内側からの要請に応えたものであった。迫 昭嘉と札幌交響楽団はピアニストとしては勿論のこと、近年は指揮者としても数々の共演を経験している。稚内定期には第15回の際に演奏された、ベートーヴェン:『トリプル・コンチェルト』のソリストとして登場している。

迫 昭嘉はいつものことだが、ピアノ協奏曲ではピアノの蓋を完全に外してしまい、ピアニストが客席に背を向けるように、弦楽セクションを左右に分断するようにピアノを配置する。そして弦楽セクションの配置は対抗配置(両翼配置)とする。札幌交響楽団では正指揮者の高関 健氏がいつもこの配置で演奏しているので、すでに慣れ親しんだ配置なのだそうだ。この日の演奏会ではこの配置の特性により、それぞれの作品における弦楽セクションの緻密な書法があまねく示された。『コリオラン』序曲では、この作品のもつ重厚で英雄的・悲劇的キャラクターが堅牢な造形を伴って、存分に表現されたし、シューベルトでは新しい研究成果であるエディションを研究しつつも、ドイツ音楽の伝統的なスタイルを尊重して、自然で豊かな、そしてスケールの大きな音楽を作り上げた。加えてモーツァルトではピアノとオーケストラとの音楽的な対話が立体的・有機的な豊かな感興をもたらしていた。そもそもモーツァルトのピアノ協奏曲は 『モーツァルトのために書かれた音楽』である。彼自身がピアノを弾きながら、オーケストラをリードしながら音楽を作ってゆく・・・・ ピアノパートとオーケストラのそれぞれのプレーヤーと密接な音楽的な対話をしながら形作ってゆく・・・・室内楽的な世界であり、後の時代の協奏曲が、ヴィルトゥオーゾを披露するためのものであるのとは大きく異なる。欧米ではしばしばこのように演奏されるモーツァルトのピアノ協奏曲だが、日本では意外にもその機会は少ない。これをやり遂げるには、ピアニストとしての高度な技術と室内楽奏者としての豊富な経験、さらにオーケストラについての豊富な知識とオーケストラプレイヤーを円滑にリードできる音楽性と人間性などが求められる。札響が以前にこのような演奏形態でモーツァルトのピアノ協奏曲が演奏したのは、2002年1月29日千歳市民文化センター、 30日札幌市民会館での演奏会。このときの指揮とピアノも迫 昭嘉。因みに、モーツァルト以外では、1994年PMF音楽祭で、C.エッシェンバッハがベートーヴェン ピアノ協奏曲第2番 を演奏している。そういえば、迫は昨年 京都市交響楽団と京都コンサートホールに招かれて、モーツァルトの交響曲やピアノ協奏曲を今回と同様の演奏形態で採り上げた。 この際も、『京響にとってはこれまであまりない体験』ということだった。京響との共演は大好評につき、来年再登場の予定である。

豊富なキャリアと幅広い音楽的適応力のある迫は相変わらず室内楽奏者の分野でのオファーが非常に多く、さらに最近では今回のような『ピアニスト兼指揮者』、更に『指揮のみ』のオファーも増えてきている。しかし、迫は現代日本を代表する貴重なピアノの名手でもあることを私達は忘れてはならない。順次リリース中のCD 『ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集』はリリースの度に各方面から絶賛を博し、売り上げも好調である。最近発売された『レコード芸術』誌 6月号では 4月に発売された、第7巻が取り上げられているが、今回もまたもや『特選盤』に輝いている。
(Y.K)


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