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  <アドルフォ・バラビーノのピアノ>

アドルフォは、とても静かな人だ。
こちらの目をじっと見つめて、静かに話す。彼の暮らすイギリス南部の森や牧草地に囲まれた豊かな自然のなかでは、雨音や小鳥のさえずりや、木々の梢を揺らす風の音もまた、彼にとっての大切な音たちであり、それを遮る余分な音など全く必要ないのだ。

アドルフォのピアノもまた、静かだ。
隣の部屋から流れてくる彼が弾くショパンは、まるで細い蜘蛛の糸に下りた夜露が真珠のように小さく連なって、朝の透明な光に輝き始めたのを見るかのように、儚く美しい。やがて陽が昇れば消えてしまうその真珠たちのつかの間の輝きは、とどめておくことのできない時間の流れを内包しているからこそ、小さくとも強い輝きを放つのだ。
それは、決してあらゆる人にとって直ちに心奪われる景色ではないかもしれない。でも、一旦その美しさに気付いた人にとっては、もはや、彼の音以外は受け入れがたいと思われるほど、強烈な印象となって心に刻まれる。

アドルフォのフォルテは、決して叫ばない。
どんな高みに向かう時でも、決して激昂して鍵盤をたたくことはない。しかし、そこに込められた情熱は、怒りは、哀しみは、畏れは、爆発することの許されない極度の緊張の中に表現されるからこそ、一層深い慟哭を、聴くものにもたらすのだ。

聴衆を圧倒するような超絶技巧や、輝かしい数々の有名コンクール受賞歴、または、はち切れんばかりの若々しさや大音量の迫力、そうしたもので聴衆の大喝采を浴びるタイプのピアニストではない。でもそうした華々しさから少し離れて、自身の心に本当に素直になってみたときに、魂の内面にじっくりと語りかけてくれるのは、アドルフォのようなピアニストなのではないだろうか。


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