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2006年 5/26    
湯浅卓雄(指揮)&ロイヤル・フランダース・フィル
鮮烈で幸福な出会い
     
   
     

『ダイヤモンドの街』 アントワープを本拠地とするロイヤル・フランダース・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督にフィリップ・ヘレヴェッヘが就任した1998年以来、それまで長らく地味な活動に終始していたこの楽団は今では国際的に注目される存在として変貌しつつある。
日本にも度々訪れて、ブルックナー:交響曲第9番 4楽章版の日本初演やベートーヴェン:交響曲全曲チクルスなどの傑出したコンサートを行っていることは記憶に新しい。
さて、このオーケストラの関係者が指揮者 湯浅卓雄に強い関心を抱いたのは、2005年 2月にロンドンのロイヤル・フェスティバルホールで行われた、湯浅卓雄指揮=ロンドン・フィルに演奏会を彼等が聴いたことに始まる。 正確にはこれより以前に湯浅に関する情報を得ていて、起用を模索していたようだが、このロンドン・フィルとの演奏が決定的に強いインパクトを与えたようだ。
彼らはいきなり2005/6年シーズンに3種類のプログラムによる5回の公演の指揮を湯浅卓雄に委ね、さらに早々に、2006/7年、2007/8年のシーズンへの登場も決めてしまったのである。

いよいよ初顔合わせとなった2006年 5月 9日。英語、ドイツ語、フランス語、日本語など多国語を自在に操るこの日本人指揮者と19国籍(日本人を含む)の楽団員で構成されるこのインターナショナル・オーケストラとのプローベは最初から極めて友好的で充実した雰囲気で行われたという。
指揮者の指示に対して、極めて誠実にその意図を尊重するオーケストラの姿勢は実際に演奏会の後の楽員達の指揮者への表敬ぶりからもうかがえた。

今回の湯浅卓雄&ロイヤル・フランダース・フィルとのプロジェクトの概要は以下の通りであった。

【プログラム1】
ミヨー:『屋根の上の牛』
プーランク:組曲『牝鹿』
オネゲル:室内交響曲
オネゲル:夏の牧歌
オネゲル:交響曲 第3番『典礼風』

5月11日 アントワープ大聖堂


【プログラム2】
オネゲル:夏の牧歌
プーランク:組曲『牝鹿』
ミヨー:『屋根の上の牛』
オネゲル:室内交響曲
オネゲル:『ラグビー』
オネゲル:『パシフィック231』

5月13日 アントワープ クィーン・エリザベス・ザール


【プログラム3】
Maes: Concertante Overture
プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番(ソリスト=ヴァディム・レーピン)
スクリャービン:交響曲 第3番 『神聖な詩』

5月18日 アイントフォーヘン音楽センター(オランダ)
5月19日 アントワープ クィーンズ・エリザベス・ザール
5月20日 ユトレヒト 音楽センター(オランダ)

今回のプログラミングは基本的にオーケストラ側の要請に湯浅が応じたものである。

筆者は5月19日及び20日の演奏会を現地で聴くことができた。
いずれの公演でも レーピンのヴィルトゥオーゾに対する聴衆の期待度は高く、レーピン自身もそれに応えるべく、アトラクティヴな指向の強いパフォーマンスを行い、大いに喝采を浴びてはいたが、それは聴衆を深い感動に導いていたというよりは、いささか見世物見物の様相を呈していた。
後半に演奏された、スクリャービン:交響曲 第3番『神聖な詩』は演奏時間が50分近くに及び全編がかなり過剰なロマンティシズムで貫かれている。加えて循環形式を用いて、しつこいほど繰り返し同じような濃厚なモティーフが繰り返され、加えて多様な要素が複雑に入り組んでいて、何とも見通しの悪い作品である。
これを『退屈』させることなく、聴衆に共感を得ることは容易なことではない。
さほど多くのディスクがリリースされている作品ではないが、多くの演奏は過剰なロマンティシズムの洪水のような状況になってしまっている。
筆者の知る限り、ミヒャエル・ギーレン=南西ドイツ放送交響楽団との1975年の演奏のディスクこそが、この困難から脱却して、見事なフォルムを確立しているように思える。
もっとも、湯浅卓雄の『神聖な詩』がギーレンのそれと酷似しているなどというわけではないが、この両者の演奏に共通することは過剰なロマンティシズムの洪水状態を回避し、フォルムとディテールを明晰化している点だと思われる。
アントワープのクィーンズ・エリザベス・ザールは2100名の収容人員を誇る大ホールではあるが、建設時の様々な政治的な問題によって、座席は全面を分厚い羽毛のようなクッションで覆われており、通路には絨毯が張ってあるので、響きはとてもデッドで音の明瞭性を求めることは非常に難しいホールである。
このような状況下でこのスクリャービンの作品を演奏することは困難極まりないことではあるが、彼らは懸命に豊麗な世界を表出しようとしていた。一方、翌日のオランダ・ユトレヒトのホールはまさにコンサート専用のホールで、非常に豊かな響きと明晰さと兼ね備えた美しい音のするホールであった。
両日とも聴衆の反応はすこぶる良好ではあったが、アントワープでは聴衆の喝采は困難な音響環境における演奏者の大奮闘に対するねぎらいの部分がいくらかあったかもしれないが、ユトレヒトではシンフォニーが壮大なフィナーレで終わった後、車椅子のお客様を除く、完全に全ての聴衆がスタンディングオヴェイションをしてしまったのである。 
オーケストラ・プレイヤーも盛んに指揮者を喝采し、熱狂的なフィナーレとなった。
終演後、舞台裏ではプレイヤーの何人もが『この困難な作品が実はこんなに素晴らしいシンフォニーだったということが体験できてよかった!!』と指揮者を訪ねては話しかけていた。

湯浅卓雄とロイヤル・フランダース・フィルの出会いはこのように非常に幸福なものとなった。
この次の両者の協働作業は今年の10月。
曲目は ブリテン:セレナーデ と ショスタコーヴィチ:交響曲 第10番である。


   
         

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