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漆原 朝子 雑誌掲載記事 | ||||
音楽の友 '10 9月号 ベリー・スナイダーp ヴァイオリン・ソナタ全3曲と3つのロマンスに挑む シューマンのヴァイオリン・ソナタはいずれも40歳を超えてからの果実だが、いまでも十分な評価を受けているとは言いがたい。ヴァイオリン・パートが鳴らしにくい歌の音域で書かれているうえに、ピアノの和音も分厚く、旋律が引き立たないのが地味な印象を与えるゆえんだが、漆原はそこにシューマンの自然な深さをみている。「シューマンの音楽は本当に奥行きがあると私は思います。弾いていて身体が深まっていくというか、自分の奥に入っていく感じがある。こうやらなくちゃ、というのではなくて、シューマンの自然な息遣いで伝わってくるものを、自分の言葉で表現できたらと思います。例えば、突然フレーズが変わるのも、書いているときに急に気が変わったのであって、きっと作為的なものではない。音楽にそって、表現も変わっていけばいいし、そうでないと不自然になる」 漆原が全3曲のソナタと「3つのロマンス」を採り上げるのはこの秋が3度目で、ピアニストのベリー・スナイダーと02年に神戸で行った最初の演奏会はCD化もされている。「とくに第3番が散文的で弾きにくいのは確かです。シューマンも音楽のことだけを考えて、ヴァイオリンということはその瞬間忘れていたんだろうな、と思うところがあります。そこは、音域に頼らずに音そのものの存在感、厚みやパワーを大きく出し、表現のニュアンスを深めていかなくてはいけない」 ヨーロッパに出て、自然なアプローチを採って以来、「シューマンは以外と身近に感じる」と語る。「全曲演奏会は滅多にできることではないので、私自身が経験して成長できたことを表現したい。やっぱり生きていくってすごく大変なことだと思うし、苦しかったり楽しかったり悩んだりという体験が若かった時より増えている。シューマンの苦悩まではいかないですけれど、命があること、存在することを以前よりも少し重く感じることができるので、それを何らかの形で皆さんに伝えられたらいいなと思います」 (取材・文:青澤隆明) ↑クリックすると拡大画像がご覧いただけます。 ぶらあぼ '10 9月号 シューマンが晩年の心境をヴァイオリンに託したメッセージ 2002年に神戸新聞松方ホールでピアニストのベリー・スナイダーと共に、シューマンが残したヴァイオリンとピアノのための作品のすべてを1夜で演奏して注目され、その希少な演奏会のライヴCDも絶賛を集めたヴァイオリニストの漆原朝子。オリジナル・コンビにより、ついに東京でシューマンのヴァイオリン作品全曲演奏会が実現する。 「再演の機会をいただけて嬉しいです。気構えをしっかりしておかなければと思っています。晩年のシューマンがヴァイオリンに託したメッセージ、そこにこめられた彼の思いをどれだけ深く表現できるかが課題です。最初に全曲演奏した時から8年経ちました。この間に私の人生でもいろいろな事があったので、それらの経験が実り多く音になって欲しいと思いますし、さらに深いところまで掘り下げて演奏したいと思っています。自殺未遂する前年の複雑な心境から生まれたソナタ第3番は、ヴァイオリンもピアノも独創的で弾きにくく、苦労する割に効果の少ない難しい曲です。演奏される機会も少なく、一般的な認知もいまひとつというところですが、シューマンの本質を知るうえで大切な作品だと思います」 シューマンのソナタは、ジュリアード留学時代に初めて学んだという。 「ジュリアード系の奏者たちは過激に弾いていたので“シューマン=過激”と思っていました。そうしたシューマンは私にとって異物でしかなかったのです。その後ドイツで、ベルンハルト・ヴァンバッハ教授と共演の機会がありまして、シューマンは過激じゃない、自然体で弾いたほうが良いと教授に言われ、目からウロコが落ちました。そこから私のシューマン像やシューマンに対する観念が全く変わり、興味が湧きました。その後ドイツに少し住んでいたりしていたので、より身近な存在になりました。シューマン作品には奥行きを感じます。感情を奥深く辿るニュアンスの“ひだ”が多く、色々な角度から臨める多彩な表情があります、そこが魅力です」 ベリー・スナイダーとの共演歴は18年。彼は小曽根真にクラシック・ピアノの手ほどきをしたことでも知られる。 「音色が空間に染み渡るように優しくて、繊細な中にも力強さがあります。堅固な土台のように支えつつ、包み込んでくださるピアニストです。作品を弾く時は常に、私の中に蘇る作曲家の声や感覚を汲み取って音に反映させ、私を通してお客様に伝えられたらと思っています。シューマンは弾きがいがあります。この貴重な機会に再認識というか、会場で聴いていただければ幸せです」 (取材・文:横堀朱美) ↑クリックすると拡大画像がご覧いただけます。 |公演詳細に戻る| |
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